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松本 寛『増補改訂 漱石の実験』(朝文社)

  高校の頃、同級生が自宅に遊びに来ると、「お前の本箱にはみごとに文学史に載つてゐる本がずらりと並んでゐるなあ」といはれた。
 むろん、文学史にのるやうな名作くらゐは讀んでおいて損はないだらう、あるいは讀んでおかないとはづかしいだらうといふ意識もあつたはずだが、いはゆる古典の類は評価が決まつてゐるので、極端ないひかたをすると「これを讀んで面白くないのは自分の讀み方に問題があるからだ」といふ判断の拠り所を求めてゐたところもあつた。

 しかし、さういふ意識のなかでも、納得できないのが夏目漱石の『こころ』といふ小説だつた。この小説は今でも漱石の作品の中では群を抜いて売れてゐるらしい。
 
 私にとつては漱石作のなかでも群を抜いて面白くない作品で、またどう讀んでも「駄作」としか思へなかつた。むろん、初めは「自分の鑑賞力に問題があるのだ」と思つた。

 それからはほぼ1年に1回は我慢して『こころ』を讀んだが、やはり自分の趣味とは別に、小説として傑作だとは思へないのである。

 しばらく、讀まない時期が續き、何年ぶりかにまた讀んでみたことがある。すると、内容ばかりか、文章もだらしないことに氣づいた。まるで武者小路實篤の、あの締まりのない文體と變はらないではないか。私はとりわけ文體や文章を重く見るので、この時の発見は致命的な意味をもつた。

 漱石を論じた書物で、私が評価してゐるのは二冊しかない。その一冊が、松本寛・著『増補改訂 漱石の実験』(朝文社)である。第五章の「『こころ』論」が特にいい。ただし、五章だけ讀んではもつたいない。序章から通讀しなくてはいけない。
 内容は他の漱石論など比較にならないほど緻密で、説得力があるのだが、「あるまいか」「思われる」「私たちは~しなければならない」といった類の言ひ回しが多く、それが目障りで説得力を弱めてゐるのが唯一の缺点だ。

 この本を讀むと、漱石を讀みながらどこか引つかかる感じがあつたことも自覺できるし、潜在的に自分の謎になつてゐたことも、かなりの部分は明かになる。
 『こころ』といふ小説の意味もよく理解できる。

 岩波の漱石全輯を新舊二種類持つてゐるので、そのうち久しぶりに漱石でもまとめて讀んでみようか。ただし、いくら松本著に感心されられても、『こころ』を讀むことはもうないだろう。

 さあ、また仕事にもどらなくては。
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